旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 萬屋直人 電撃文庫 2008年3月25日

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)

旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 (電撃文庫)

☆☆☆☆☆☆☆
 『喪失症』の蔓延により、人類は緩やかに滅びつつあった。人々は名を失い、色を失い、そして存在を失っていった。そんな世界で――少年と少女は旅を続けている。スーパーカブに乗り、日記帳を持ちながら、2人は「世界の果て」を目指す。
 緩やかに滅びを迎えつつある世界で、「世界の果て」を目指して旅を続ける少年と少女の物語『旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。』です。早速感想。これはとても面白かったですね。雰囲気が素敵です。
 設定で目を引くのはなんといっても『喪失症』。それに罹った人は名前を、色を、そしてやがて存在そのものを失っていく・・・・・・。そして、旅をする少年も少女もそれに罹っていて名前を失っており、まさしく少年は少年であり、少女は少女である、ということがなんだか新鮮でした。話的には全然関係ないけど、なんとなくゲーム「火星物語」を思い出したり(主人公が序盤、少年Aだったりヒロインが少女Yだったりするのです)。
 設定だけ見るとなんとも悲惨なお話になりそうなのですが、実際は結構前向き。たしかにどこか切ないのだけど、それでも「生きてる」って感じがするお話でした。すごく素敵。ストーリー自体は3つの短編から成っているのですが、これがまた良かった。個人的には第二章の「翼」が好きですね。
 まとめ。緩慢に滅びに向かう世界のなかで旅を続ける少年少女の物語。その雰囲気が素敵な作品でした。
 印象に残った台詞(以下反転)――「少年はね、私の物なの。んで、私は、少年の物なの。だから、駆け落ちなんて絶対に有り得ないわ」――少女の台詞。少女は否定してるけど、やっぱり少年と少女は恋人同士だよなーと思った台詞です。