空とタマ

空とタマ ―Autumn Sky,Spring Fly― 鈴木大輔 富士見ファンタジア文庫 2006年7月15日

空とタマ―Autumn Sky,Spring Fly (富士見ミステリー文庫)

空とタマ―Autumn Sky,Spring Fly (富士見ミステリー文庫)

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 天野空は7回目の家出を決行した。向った先は田んぼの近くに建っている廃倉庫。しかし、誰もいないはずのその倉庫に先客がいた。そして・・・その先客・タマと空の廃倉庫を舞台にした攻防戦が始まる――。
 廃倉庫で出会う空とタマの物語。これはとても面白かったですね。序盤の、2階を守るタマと1階から攻める空の攻防戦がなかなか印象的ですね。文体が空の一人称という事もあってか、空の視点からみた心理戦の模様がなんとも面白いです。
 と、ここまでのお話だけだと第3者(読者)の視点から見ると、ただのちょっとしたケンカなのですが、これが中盤 そして終盤へと展開していくと話の雰囲気が変わっていき、それが非常に良かったです。
 最初は軽いものだと感じていた家出のことや、空のことなど、少しずつ明らかになっていくにつれて物語により引き込まれていく感じかと。さらにタマのことが明らかになりラストへと繋がっていく流れもとても良くて、そのラストと相まって読み終えたあと なんとも切ない気持ちになります。
 まとめ。中盤、終盤の空とタマの触れ合いがとても良かった作品。なかなか重いテーマを背負っていますが、空とタマ、二人の心情がとても丁寧に描かれていたかと。とても楽しめた作品でした。
 印象に残った台詞・文(以下反転・重要部分の引用です)――「せめて月に一度くらいは遊びに来てください。楽しみに待ってます。ううん、やっぱり周に一度は来てほしい。顔を見せるだけでいいから。ああやっぱだめ、やっぱり、ちゃんと、毎日来てください。わたしはあなたがいないとつまらないです。さびしいです。」――タマの手紙の一部分。詳しくは書きませんが、なんていうかもう この部分で泣きそうになった。とても切ないです。