タザリア王国物語

タザリア王国物語 影の皇子 スズキヒサシ 電撃文庫 2006年7月25日

☆☆☆☆☆☆☆
 小国がひしめきあうバルダ大陸。そのひとつ、ダザリア王国。貧民窟(スラム)に住む少年・ジグリットは仲間達と共に貧しい生活を送っていた。しかし、そんな彼に転機が訪れる。彼の容姿がダザリア国の皇子・ジューヌと瓜二つであると知った騎士の紹介により皇子の影武者として教育を受けることになったのだった――。 
 「ダビデの心臓」の作者・スズキヒサシ先生の新作です。ジャンルは戦記ファンタジーとのことです。
 で、感想。これは面白いですね。なかなかに癖のあるキャラクター達が魅力的です。また、その展開も惹き付けられるものがあって、どうなってしまうのかとドキドキしながら読めました。
 まず、目に着くのは主人公の境遇。皇子の影武者として教育を受けていくわけですが、皇子はどうしようもないくらいの臆病者だし、皇子の姉・リネアはジグリットに対し陰湿な虐めを繰り返すという感じで、ジグリットはあまり恵まれた環境ではないところで過ごします。でも、そんな中でも彼の実力を知り、期待をかけてくれる人たちもいたりする。そんな状況が印象的でした。
 キャラクター的にはファン・ダルタが良かったですね。凄く不器用だけど、その心根は優しいといった感じでしょうか、なんとも素敵な方です。
 また、ジューヌ皇子の姉リネアもインパクトがあったかと。ジグリットに対し歪んだ感情を持っていて、彼を虐める日々を過ごしているわけですが、これがまた容赦がなくてなんとも恐ろしい。ただ。個人的にはその事よりも、他国との面談をこなせるほどの頭の良い人だってことが驚きです。案外、タザリア王国にとって重要な人間に成長していくのかもと思ったりも・・・。
 まとめ。全体的に引き込まれる物語ではあるのですが、とりわけ終盤の展開が良かったです。今後、恐らく絶対に大変な目に遭うだろうジグリットがどうなるのか、非常に気になります。最後に一応一言。この作品はとても面白いのですが、基本的に暗い展開が続きます。なので、そういう系がダメな人には合わないかもしれません。