土くれのティターニア

土くれのティターニア 増子二郎 電撃文庫 2006年7月25日

☆☆☆☆☆☆
 <花の女神>、<戦乙女>、<恐怖の暴君>・・・その少女は様々な二つ名をもっている。少女の名前は御崎明日香。彼女は人知れず、<山のカミ>から授かった力を使い、山からおりてくる<良くないモノ>と戦っていた。そんな彼女に突然呼ばれた良文は、彼女と自分の意外な接点を知り、自身もまた不思議な世界へと足を踏み入れていく。
 人に災いをもたらす<マガツモノ>から人々を守るため、人知れず戦う二人の物語です。これはなかなか面白かったですね。5章仕立ての短編集ですが、それぞれ明日香と良文のやり取りが良かったです。特に戦闘より日常でのやり取りが好きですね。
 あらすじには青春怪異譚とありますが、ホラーというわけではないですね。どちらかというと穏やかなお話かと。
 明日香自身も特異な存在(以下一応反転―命と引き換えに、心臓と左半身を山のカミに喰われた)といえるのですが、良文もまた南国精霊(仮)なるものに取り憑かれています。で、この南国精霊(仮)が良かったですね。良文の背後で踊ったりと、なかなかユーモラスな存在のようです(笑)。
 個人的に、特に面白いと感じたのは第3話「声は響いて」。ケータイに宿った付喪神のお話です。詳しくは書きませんが、なんとも切ないお話でした。
 まとめ。明日香と良文の掛け合いが良かった作品。激しく盛り上がるといったものではないのですが、シトシトと染み入るような雰囲気が好きだったりします。続編を期待したい作品です。
 印象に残った台詞(以下反転)――「食べちゃ、だめ! 口から放しなさい、精霊さん! あぁ、喰うなっ、南国っ!」――明日香の台詞。ケータイ(中についているモノ)を喰おうとした南国精霊(仮)に対しての台詞です。なんていうか、笑った。慌てふためく明日香と、踊りながらケータイを喰らおうとしている南国精霊(仮)を想像したらなんとも楽しいです(笑)。